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保育士・保育教諭の自宅持ち帰りの仕事、残業代は請求できる。証拠を集めておきましょう



こんにちは、こども園副園長の「しん」です。

皆さんは、保育士・保育教諭として働くなかで、このような悩みを抱えたことはありませんか。

  • いつも持ち帰りで仕事をさせられる。どうして園で仕事をさせてくれないの?
  • 持ち帰りで仕事をさせられてるけど、家での仕事については残業代って請求できる?
  • 持ち帰りで仕事をしたくない。なんとかする方法はないかな?

私は、前職が法律専門職でしたので、法律的な観点と副園長としての観点も踏まえてこれらの悩みについて回答します。

結論から言いいます。

園が持ち帰り残業をさせるのは、見栄えを良くするため残業代を支払いたくないからです。

そして実は、持ち帰り残業であっても残業代を請求することは可能です。

これから、詳細を説明します。


園が持ち帰り残業を強要するのは見栄えと残業代をケチるため



普段保育士や保育教諭として働いていると、どうしても残業をしなければならない場面ってありますよね。

勤務時間中に日案や月案、指導計画の作成が終わらなかった、保護者への手書きのお便りがまだできていない、制作物の準備が全然できていない…など色々と考えられます。

正直、こういった仕事は園で終わらせて帰りたいところですが、実際には園での作業はできず、家に持ち帰って作業をしなければならないことも…。

では、なぜ家での持ち帰り残業を園は強要するのでしょうか。

実は、園が保育士・保育教諭に持ち帰り残業を求めるのには、2つの理由があるんです。

それは、

  • 残業されると園の評判が下がる可能性がある
  • 園が残業代の支払を免れようとしている


からです。

詳しく説明しますね。


残業されると園の評判が下がる可能性がある



まず、園長は職員に持ち帰り残業をさせることで、近所に悪い評判が立つのを防ごうとしています。

園長は、対外的な園の評判をとても気にしています。園の評判が翌年度の園児の入園数に直結するからです。

なので、閉園時間を超えて保育士らが園で作業をされると非常に困るわけです。

園で作業するとなると、園の電灯を点けなければなりません。

園に明かりがついていると、近所の人々は「こんなに夜遅くまで仕事をしている」と認識するわけです(実際、そのとおりなんですが。)

保育園やこども園の入園生の多くは園の近所に住んでいます。園の近所で、「あそこの園は職員を夜遅くまで働かせている。」なんて評判が立ってしまうと、園の運営へのダメージは図り知れません。

なので、家での作業を指示するわけです。家で作業をしている分には、園の近所の人々にはバレないですから。


園が残業代の支払を免れようとしている



次に、園長は職員に持ち帰り残業をさせることで残業代の支払を逃れようとしています

園が職員の園での残業に対して残業代を支払わないのは非常にリスクの高い行為です。

なぜなら、実は園に対する監督が非常に厳しいからです。

保育園やこども園の監督官庁は市町村です。

定期的に監査という形で調査が入り、勤怠管理についても厳しくチェックされます。

そのため、園の勤怠管理はタイムカードなど明確に測れるように指導されているはずです。

ですので、タイムカードを押さなければならない園での残業について、園長は良い顔をしません。仮にタイムカードを押させなかったとしても、園の明かりなどからバレる可能性も考えます。

その分、タイムカードを押した後に自宅で勤務をさせようとします。タイムカードを押させ、自宅で勝手に仕事をしているのだから残業代を支払う必要はないと考えるのです。


持ち帰り残業について、条件が合えば残業代請求は可能



しかし実は、持ち帰り残業であっても条件が合えば残業代を請求することは可能です。

家で仕事をした時間が労働時間だと認定されれば、その労働時間分の残業代について、園は支払わなくてはならないからです。

以下で詳しく見ていきます。少し難しい話になります。結論だけ知りたい方は、こちらへどうぞ。


残業代は労働時間について請求できる



まず、残業代については労働基準法37条1項本文でこのように規定されています。

使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。



少し文章が難しいですね。保育園・こども園向けに簡単にまとめると、

園が、保育士らと36協定を結んで、労働時間について、法律で定められた1日に8時間とか1週間に40時間という時間を超えて働かせると決めた場合や、休日に働かせた場合には、その延長した「労働時間」については、1.25倍~1.5倍の範囲で割増賃金を支払わなければならない。(一部は省略しています)

というものになります。

つまり、入社時の契約で1日に8時間働くという内容で契約している場合に、36協定で園が保育士らを残業させられるとしても、8時間を超える「労働時間」については、時給に1.25倍~1.5倍をかけたお金を支払わなくてはならないことになります。ちなみに、契約が1日8時間より少ない場合には、8時間までは割増分はありません。

ここで、36協定とは、園が職員との間で、法律で決められた1日当たり8時間、1週間当たり40時間の労働時間を超えたり、休日に働かせてもいいと合意することです。

この協定を結んでいる場合、園は保育士に対して残業を命令できます。

実際、1年に1回36協定についての合意書などを書かされたことがある人もいるかもしれません。

一方で、36協定を結んでいない場合、園が保育士らに残業を命令すること自体が違法です。そして、36協定を結んでいない場合でも残業させられた保育士らは園に対し1.25倍の割増賃金を請求できます

そして、ここで割増賃金として請求できるのは、延長されたり働かされた「労働時間」についてです。実際に作業をしていた時間が「労働時間」だと認められれば割増賃金の請求が認められます。


「労働時間」と認められるには、作業が使用者の指揮命令下にあるかによる



それでは、どのようにして実際の残業でした作業にかかった時間が「労働時間」と認められるのでしょうか。

ここで、判例という最高裁判所が裁判で出した判断を掲載します。

三菱重工長崎造船所事件(最判平成12・3・9民集54巻3号801頁)
労働基準法にいう労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではないと解するのが相当である。



これまた難しいですね。

簡単にいうと、「労働時間」かどうかは、保育士らの残業での作業にかかった時間が「園の指示」のもとになされたものかどうかで判断します。

園の指示のもとになされたかどうかは、雇用契約書とか就業規則とかでは決まらないですし、自分の意志で率先して残業した場合も労働時間には含まれないことになります。

つまり、保育士らが残業でした作業について、園の指示があったかどうかにより判断されるわけです。

でも、園の指示って、職場ではなんとなくそんな雰囲気だし、残れないからかえって仕事しているだけで園長からは何も言われたことない…

という人もいるかもしれません。大丈夫です。園の指示には「明確な指示」だけでなく、「黙示の指示」も含まれます

明確な指示は明らかですね。夕方に園長に呼び出されて、明日までに終わらせておいてねって言われるやつです。

一方、黙示の指示はそこまでわかりやすくないです。職場で残業が常態化していたとか、園が残業をしっていながら放置し続けたといった事情が必要になります。


残業代請求についてのまとめ



以上をまとめると、

  • 残業代は労働時間について請求できる
  • 残業が労働時間かは、その残業が園の指示によるかどうかで決まる
  • 園の指示には、明確な指示と黙示の指示がある

ということになります。


持ち帰り残業も労働時間と認定されれば残業代を請求できる



以上の残業代を請求するために必要な要件については、持ち帰り残業についても同様です。

持ち帰り残業による作業にかかった時間が労働時間と認定されればよいのです。


持ち帰り残業の場合、園の指示によるかの判断が難しい



ただ、持ち帰り残業の場合、残業代請求の難易度は上がります

なぜなら、持ち帰り残業が園の指示によるかどうか、そして実際に作業にかかった時間の判断が難しいからです。

園長が、明日までに家でやっておいてねって、毎回言ってくれれば話は早いです。明確な指示がありますから。さらに、翌日何時間かかったか聞いてくれれば最高です。

しかし、そういった指示がない場合がほとんどだと思います。仕事が終わらないし、仕方がないから家で仕事する、職場の雰囲気がそうだから家で仕事する、という感じです。

この場合、園が持ち帰り残業を知っていながら放置していたと主張するのは難しいです。

園が保育士が家で何しているかまで把握はしていませんし、家でのことなので持ち帰り残業が常態化していたことを証明するのも困難です。

なにより、園側から持ち帰り残業は自分の意志でやっていたとか、家で作業したとしてもこんなに時間がかかるはずないから実際には働いていない、なんて反論をされる可能性もあります。

そのため、残業代を請求しても支払を拒否される可能性が高いです。


持ち帰り残業の場合、証拠集めが何よりも重要



そこで、持ち帰り残業について残業代を請求する場合、何よりもまず証拠を集めましょう

どのような証拠を集めるかというと、

  • 持ち帰り残業が園の指示によることを示す証拠
  • 持ち帰り残業で実際の作業時間がわかる証拠

が必要です。

園の指示については、黙示の指示でも良いので、閉園したら有無を言わさず園を施錠していたことがわかるものであったり、園長が持ち帰り仕事を容認していたことがわかるものとかです。写真や録音、録画、メールなどが非常に重要になります。

また、実際の作業時間がわかるものも証拠として残しておきましょう。作業開始時間・終了時間を記載したメモとか、この制作物なら通常この程度時間がかかるとわかる資料とか、主任や主幹に送った作業開始と完了の報告メールとかです。

ここに挙げた以外にも、様々な方法で証拠を残しておくことができます。

残業代の請求、特に持ち帰り残業は証拠が非常に重要なので、ありとあらゆる証拠を残しておくべきです。

そして、証拠集めは非常に難しいので、弁護士や司法書士といった法律の専門家に必ず相談しましょう。的確なアドバイスを受けられるはずです。


まとめ: 転職を考えるなら、むしろ絞りとってやろうとの意気込みで証拠集めをしよう



今回は、持ち帰り残業について残業代を請求できる理由と、残業代請求をするのに必要な証拠について紹介しました。

個人的には、持ち帰り残業までさせて残業代の支払を渋るような園は他でも無茶をしているので、転職も考えてよいと思います。

そして転職時にたまりにたまった残業代を一気に請求してやれば、余裕を持って転職先で働くことができるようになります。

残業代って割増賃金なので、本人の思う以上に金額が高いことが多いですので。

ただし、だからといって率先して持ち帰り残業するのはだめですよ!園の指示によるものではなくなってしまいますからね。

転職するかはさておき、将来のことを考えて、証拠集めだけでもしておきましょう。

弁護士への相談も最初の30分は無料なところが多いので、証拠集めだけでも相談しておけば安心できますよ。

ちなみに、転職先を探すのであれば、求人サイトを利用するのがおすすめです。その理由については、こちらの記事で説明しています。

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